婚姻届を出してから200日以内に生まれた子は、法律上、夫の子と推定されるのでしょうか。令和6年(2024年)4月1日より前に生まれた子と、その日以後に生まれた子で、答えが逆になります。法務省の調査では、平成26〜28年に生まれた子の約9.2%が、母の婚姻の成立の日から200日以内に生まれていました。
- 令和6年4月1日以後に生まれた子:婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子も、婚姻が成立した後に生まれていれば、夫の子と推定されます(民法772条1項後段・2項)。推定を覆すには、嫡出否認の訴えが必要です。
- 令和6年3月31日までに生まれた子:改正前の規定が、そのまま適用されます(令和4年法律第102号の附則3条)。200日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したとは推定されず、夫の子と推定されません。
- 200日の数え方:「婚姻の成立の日」は婚姻届を出した日です。民法140条の初日不算入で数えると、2026年3月20日に届け出た場合、200日目は2026年10月6日、201日目は2026年10月7日です(このページの読みです)。
「200日」は、何の日数か
民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し(1項)、子がいつ懐胎されたかは分からないので、生まれた日から懐胎の時期を推定します(2項)。改正前も現在も、「婚姻の成立の日から二百日を経過した後」に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます。違いは、その前、つまり200日以内に生まれた子の扱いです。
「婚姻の成立の日」は、挙式の日でも同居を始めた日でもなく、婚姻の届出の日です。民法739条1項は、婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって効力を生ずると定めています。法制審議会の部会資料は、最高裁昭和41年2月15日判決が、772条2項の「婚姻成立の日」とは婚姻の届出の日を指すと解した、と紹介しています。同じ判決は、届出の日から200日以内に生まれた子には、たとえ父母が同居を始めた時から200日以後に生まれていても、772条は類推適用されない、としたと、部会資料は書いています。
日数の数え方は、このページの読みです。民法140条のとおり届出の日を数えず、翌日を1日目とします。2026年3月20日に婚姻届を出したなら、2026年10月6日が200日目、2026年10月7日が201日目で、「二百日を経過した後」に生まれたといえるのは2026年10月7日以後です。この数え方を日付で示した公的な例は、確認できていません。境目の日に生まれた場合は、法務局などで確認してください。
令和6年3月31日までに生まれた子:推定されない嫡出子
改正前の772条2項は、婚姻の成立の日から200日を経過した後(または婚姻の解消・取消しの日から300日以内)に生まれた子だけを、婚姻中に懐胎したものと推定していました。そのため、婚姻中に生まれた子でも、200日以内なら、夫の子と推定されませんでした(部会資料)。2023年6月1日に婚姻届を出した母の子なら、2023年12月18日(200日目)までに生まれた子は推定されず、2023年12月19日(201日目)以後に生まれた子は推定されます。
それでも、親子関係がなかったわけではありません。部会資料によると、戦前の大審院の判決(昭和15年1月23日)が、婚姻の前に内縁関係が続いていて、その内縁の夫との間で懐胎した子は、認知の手続なしに、出生と同時に父母の嫡出子の身分を持つとしました。これを受けて、戸籍実務では、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子について、嫡出子の出生届を出すことが認められ、このような子は「推定されない嫡出子」と呼ばれます。母が嫡出でない子として出生届を出すことも認められています(昭和26年の民事局長回答)。
推定がないことの裏側が、不安定さでした。部会資料は、推定が及ばないので、親子関係不存在確認の訴えなどで、いつまでも父子関係を否定される可能性があると指摘しています。たとえば、嫡出子として届けられ、長年その夫婦の子として育った子が、血縁がないと分かって、相続の場面で他の親族から父子関係を争われ、相続人の地位を失うことが考えられる、という例です。
令和6年4月1日以後に生まれた子:推定される
令和4年の改正(令和6年4月1日施行)で、772条1項後段が加わり、女が婚姻前に懐胎した子であって婚姻が成立した後に生まれたものも、夫の子と推定されることになりました。2項は、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子を、婚姻前に懐胎したものと推定します。新しい規定は、令和6年4月1日以後に生まれた子に適用されます(附則3条)。
| 子が生まれたのは | 〜令和6年3月31日生まれ | 令和6年4月1日〜生まれ |
|---|---|---|
| 婚姻の成立(届出)の前 | 推定なし | 推定なし |
| 婚姻の成立の日〜200日目 | 夫の子と推定されない(推定されない嫡出子) | 夫の子と推定される(婚姻前に懐胎したと推定) |
| 201日目以後 | 夫の子と推定される | 夫の子と推定される |
推定されると、否認する手続が決まります。夫・子・母(再婚後の夫の子と推定される子は前夫も)が、嫡出否認の訴えを、原則として3年以内に起こします(774条・777条)。期間が過ぎると、この訴えでは争えません。部会資料は、見直しの理由として、否認権の行使期間が過ぎれば何人も父子関係を争えなくなり、父子関係が安定することを挙げています。具体的な期限は、嫡出推定の計算で計算できます。
部会資料は、見直しの理由として、妊娠を契機に婚姻するカップルが増えていること、そのようなカップルは、通常、夫婦で子を養育する意思があると考えられることも挙げています。人口動態統計特殊報告の引用では、結婚期間が妊娠期間よりも短い出生の子が嫡出第1子に占める割合は、1980年の12.6%から、2000年には26.3%、2009年には25.3%になっています(部会資料の注。厚生労働省の報告そのものは読んでいません)。
法務省の調査:200日以内に生まれた子は、実際にどう届けられていたか
法務省民事局は、平成26年1月1日から平成28年12月31日までに生まれた子を、コンピュータ化未了の市町村を除く全市区町村で調べました。出生は3,029,074人で、そのうち父母が日本人で母に夫婦関係がある2,866,818人が調査対象です。
| 区分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 母の婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子 | 279,581人 | 出生の9.2% |
| うち嫡出子として届出 | 279,550人 | 200日以内の99.99% |
| 母の現夫を父とする子(推定されない嫡出子) | 278,299人 | 200日以内の99.5% |
| 母の前夫(婚姻解消後300日以内)を父とする子 | 58人 | 200日以内の0.02% |
| 上記以外 | 1,193人 | 200日以内の0.4% |
| うち嫡出でない子(非嫡出子)として届出 | 31人 | 200日以内の0.01% |
| 母の婚姻の成立の日から200日より後に生まれた子 | 2,587,237人 | 出生の85.4% |
各行の人数は、法務省の表の件数です。足し算が合うことは、このページのビルドのたびに確かめています(現夫・前夫・上記以外の合計が嫡出子の件数、嫡出子と非嫡出子の合計が200日以内の人数、200日以内と200日より後の合計が調査対象)。割合の分母は、法務省の表のとおり、出生人数または200日以内の人数です。
つまり、200日以内に生まれた子のほとんど(99.5%)が、母の現夫を父とする嫡出子として届けられていました。改正前は、母の現夫を父とするこれらの子は「推定されない嫡出子」でしたが、令和6年4月1日以後に生まれる子は、同じ届出が、嫡出推定のある子になります。なお、この調査の「200日以内」の数え方(届出の日を数えるか)は、資料に書かれていません。
この記事で確認していないこと
- 令和6年4月1日以後に生まれた子の出生届の扱いの細部(嫡出でない子として届け出られるかなど)。部会資料は、見直しをすると常に嫡出子の出生届を提出することになると、検討段階で述べていますが、成立した法律と戸籍実務の現在の扱いは、読んでいません。
- 最高裁昭和41年2月15日判決、大審院昭和15年1月23日判決、昭和15年・昭和26年の民事局長通達・回答は、法制審議会の部会資料の紹介で読んだもので、原文は読んでいません。
- 調査結果は平成26〜28年生まれの子のもので、その後の件数は確認していません。厚生労働省の人口動態統計特殊報告も、部会資料の引用で読みました。
- 200日・300日の数え方(民法140条の初日不算入)は、このページの読みです。婚姻前に懐胎したことの証明、認知、生殖補助医療による出生は扱いません。個別の事情は、法務局の無戸籍相談窓口、家庭裁判所、弁護士会に確認してください。
出典
- e-Gov法令検索 — 民法(772条 嫡出の推定。現行の本文と、令和6年3月31日までの版〔2023年6月14日の版〕を比較。739条 婚姻の届出、774条・777条 嫡出否認)と、令和4年法律第102号の附則(3条・4条)。2026年10月20日に確認
- 法制審議会民法(親子法制)部会 部会資料3「嫡出推定制度の見直しについての検討(1)」(改正前の規定で婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は夫の子と推定されないこと、戸籍実務の「推定されない嫡出子」の取扱い、判例・通達、見直しの考え方、厚生労働省の人口動態統計特殊報告の引用)
- 法務省民事局民事第一課 — 嫡出推定制度に関する調査結果(民法(親子法制)部会 参考資料14-1。平成26年1月1日〜平成28年12月31日に生まれた子、コンピュータ化未了の市町村を除く全市区町村)
- 法務省 — パンフレット「民法(親子法制)改正」(令和4年。令和6年4月1日以後に生まれた子に適用、嫡出否認の訴えの期間は原則3年)