未払い残業代の遅延損害金は年14.6%? 在職中は年3%、退職後の賃金だけ14.6%になる理由と、退職金がちがう理由

未払い賃金の遅延損害金の年14.6%は、退職した労働者の賃金(退職手当を除く)に、退職の日の翌日から支払う日まで払うもの(賃金の支払の確保等に関する法律6条・施行令1条)。在職中は民法の年3%、退職金は退職後も年3%。月8万円×6か月分の例で、率の使い分けによる金額の差を比べます。

公開日 2026年10月31日

未払いの残業代を請求するとき、「遅延損害金は年14.6%」と聞くことがあります。ところが、年14.6%になるのは、退職したあとの賃金に限られます。在職中の未払いは民法の年3%で、退職手当(退職金)は退職後も年3%です。この記事では、率が切り替わる日、退職金がちがう理由、実際の金額への影響を、条文と数字で確かめます。

結論
  • 年14.6%は、賃金の支払の確保等に関する法律6条1項と施行令1条が、退職した労働者の賃金(退職手当を除く)が退職の日までに払われなかったとき、退職の日の翌日から支払う日まで払うものと決めた率です。
  • 退職の日までの分は、この法律の対象ではなく、民法の法定利率(年3%)で考えます。このページとツールの読みでは、14.6%は3%に置き換わり、足し合わせません。
  • 退職手当は6条1項で「賃金」から除かれているため、年14.6%の対象ではありません。
  • 下の例(月8万円×6か月分)では、遅延損害金が約3.8万円で、退職の日の翌日からの分が大半です。「すべて14.6%」と考えると約5.1万円、「すべて3%」と考えると約1.0万円で、どちらもずれます。

2つの率は、根拠の法律がちがう

  • 年3%(民法): 賃金の支払期日が決まっているとき、その期限が来た時から遅れた責任が生じます(民法412条1項)。お金の支払いが遅れたときの損害賠償は、遅れた最初の時点の法定利率で決まり、損害の証明は要りません(419条1項・2項)。法定利率は年3%で、令和2年(2020年)4月1日以降、令和11年(2029年)3月31日までは、法務省の表のとおりずっと年3%です。
  • 年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律): 6条1項は、退職した労働者の賃金(退職手当を除く)が退職の日(退職の日より後に支払期日が来る賃金は、その支払期日)までに払われなかったとき、退職の日の翌日から支払う日までの日数に応じて、「年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率」を乗じた額を遅延利息として払う、と定めます。施行令1条が、その率を年14.6パーセントとしています。
  • 14.6%は、365日で割るとちょうど1日0.04%です。このページでは、年3%の日割りも365日で割ります(うるう年に366日で割る読みもありえますが、差は最大で約0.27%です)。

切り替わる日と、退職の日より後に期日が来る賃金

6条1項の「退職の日」は、退職の日より後に支払期日が来る賃金については、その支払期日のことです(かっこ書き)。そのため、退職の日までに期日が来て払われなかった賃金は「退職の日の翌日」から、退職したあとに期日が来る賃金(最後の月の給料が翌月に払われる、など)は「その期日の翌日」から、年14.6%になります。日数は、翌日から支払う日までなので、期日の日は入らず、支払う日が入ります。

例: 月8万円の残業代を6か月分、払われないまま退職したとき

毎月25日が支払期日の残業代8万円が、2025年10月25日(土)から2026年3月25日(水)まで6回払われず、2026年3月31日(火)に退職し、2026年9月30日(水)に全額が支払われたとします(仮の数字です)。退職の日までは年3%、翌日から年14.6%で、1件ごとに1円未満を切り捨てた結果です。

支払期日年3%の日数年14.6%の日数この読みの利息在職のまま(すべて3%)すべて14.6%(誤り)
2025年10月25日(土)157日183日6,888円2,235円10,880円
2025年11月25日(火)126日183日6,684円2,031円9,888円
2025年12月25日(木)96日183日6,487円1,834円8,928円
2026年1月25日(日)65日183日6,283円1,630円7,936円
2026年2月25日(水)34日183日6,079円1,426円6,944円
2026年3月25日(水)6日183日5,895円1,242円6,048円
合計(未払い 480,000円)38,316円10,398円50,624円

退職の日の翌日から183日間(2026年4月1日(水)から2026年9月30日(水)まで)は、6件とも年14.6%です。古い月ほど年3%の期間が長く、6,888円と5,895円の差は、その3%の分です。この表は、このサイトの未払い賃金の遅延損害金の計算と同じ計算で、日数と金額は別に確かめた値と合っています。

退職金はなぜ年14.6%ではないのか

6条1項は、対象を「その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)」としています。かっこ書きで、退職手当が除かれています。そのため、退職金が払われないときは、6条1項の年14.6%ではなく、民法の遅延損害金の考え方(年3%)が基本になります。退職金規程などで遅延損害金の率を決めていれば、その定めが問題になりえますが、それは規程ごとの確認が必要で、このサイトでは扱いません。

14.6%が使えない場合(6条2項)

6条2項は、賃金の支払の遅れが、天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによる場合は、その事由のある期間に1項を適用しない、と定めます。施行規則6条は、事由として、天災地変、事業主の破産手続開始の決定など、法令の制約による資金確保の困難、遅れている賃金の存否に関する事項について合理的な理由により裁判所または労働委員会で争っていること、その他これらに準ずる事由を挙げています。賃金の額が裁判で争われているあいだは14.6%が止まりうる、ということです。この「争っている」が実際にどの範囲かは、条文の文言以上のことを確認していません。

利息だけを見ていてはいけない点

  • 時効: 賃金の請求権の時効は、本則では5年ですが、当分の間3年(退職手当は5年)です(労働基準法115条、附則143条3項)。支払期日ごとに別々に進みます。数え方はガイド「未払い残業代はいつまで請求できる?」にあります。
  • 付加金: 割増賃金(37条)、解雇予告手当(20条)、休業手当(26条)などを払わなかった使用者には、裁判所が、労働者の請求により、未払金と同一額の付加金の支払を命じることができます(114条)。請求は違反のあった時から5年以内(当分の間は3年以内)です。遅延損害金とは別のものです。
  • 金額そのもの: 未払いの残業代の額は、割増率や固定残業代の扱いで変わります。固定残業代の逆算を参考にしてください。

2020年4月1日より前に遅れ始めた分はちがう

民法は2020年4月1日に改正され、法定利率は年5%から年3%の変動制になりました。2019年7月1日施行の版の404条は「年五分」で、419条1項は「法定利率によって定める」でした。商法514条は「商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年六分とする」と定めていましたが、2020年4月1日施行の版では削除されています。改正法の附則17条3項は、施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合の法定利率は、なお従前の例による、と定めます。このため、2020年3月31日までに遅れ始めた分は、年3%では計算できません。どの率になるかは、このページでは確認しておらず、ツールも計算しません。施行令1条の年14.6パーセントは、民法の法定利率とは別に定められた率で、条文は今も年14.6パーセントのままです(2026年10月31日に確認)。

この記事で確認していないこと

  • 退職の日までの分に年3%を使うこと、14.6%に置き換わって重ならないこと、日割りに365日を使うこと、1円未満を1件ごとに切り捨てることは、条文に書かれていない、このサイトの読みです。官公庁の資料に、金額まで書かれた計算例は見つけられませんでした。裁判所は判決で別の率や日数を命じることがあります。
  • 6条2項(天災地変、裁判所で争っている場合など)に当たるかどうか、和解で遅延損害金を免除する取扱い、立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律7条)、旧法の率(2020年3月31日以前)は扱いません。労働基準監督署や弁護士にご相談ください。
  • 法令は2026年10月31日にe-Govで確認しました(民法の現行は2026年6月24日施行、労働基準法の現行は2026年7月17日施行の版)。法定利率は、令和11年(2029年)4月1日以降の分が未確定です。

出典

この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、法律その他の専門的助言ではありません。法令や制度は改正されることがあり、個別の事情によって結論が変わる場合もあります。契約書や重要な手続については、条文や公的機関の案内を確認し、必要に応じて弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。