子が先に亡くなっていると、その子(孫)が代わりに相続します。これは「代襲相続」です。では、子が相続放棄をしたときも、孫が代わりに相続するのでしょうか。答えは「しない」です。放棄した子の子は、相続人になりません。相続は、次の順位の人(子がほかにいなければ、親や兄弟姉妹)に移ります。
条文: 代襲が起きる事情に、放棄は入っていない
民法887条2項は、子が「相続の開始以前に死亡したとき、又は891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったとき」に、その子が代襲して相続人になると定めています。事情は、死亡、欠格(891条)、廃除の3つです。相続放棄は挙がっていません。さらに939条は、相続の放棄をした人は「初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。放棄した子は、初めからいなかったことになるので、その子(孫)が代わる相手もいません。
裁判所の相続放棄の案内も、同じ見方に立っています。第一順位の相続人は「被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)」とされ、申述人が代襲相続人のときは「被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本」が必要です。代襲の裏づけとして求められるのは、本来の相続人の死亡で、放棄ではありません。
同じ家族で、放棄と死亡を比べる
亡くなった方に、配偶者と、子A、子Bがいて、子Aには子(孫)が2人いるとします。子Aが放棄した場合と、子Aが先に亡くなっていた場合の、法定相続分(900条・901条)は次のとおりです。
| 相続人 | 子Aが放棄した | 子Aが先に死亡し、孫2人 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 1/2 |
| 子B | 1/2 | 1/4 |
| 子Aの子(孫)1人あたり | 相続人にならない | 1/8 |
子Aが放棄すると、子Aの分は、子Bが受けます(子Bの相続分は1/4から1/2に増えます)。孫には移りません。子Aが先に亡くなっていれば、子Aの分1/4を、孫2人が1/8ずつ受けます。
子が全員放棄したら、次の順位に移る
子(と、先に亡くなった子の子)の全員が放棄、または相続人でなければ、889条1項により、直系尊属(親等の近い人が先)が、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が、相続人になります。配偶者は、いつも相続人です(890条)。
- 配偶者と、放棄した子1人、母がいるとき: 配偶者は2/3、母は1/3です(900条2号)。
- 配偶者がおらず、放棄した子1人と母だけのとき: 母が全部を相続します。
- 配偶者と、放棄した子1人、親も祖父母もいなくて、兄と妹がいるとき: 配偶者は3/4、兄と妹は1/8ずつです(900条3号)。
相続放棄で相続人になるのは、「次の順位の人」です。放棄した本人の子ではありません。亡くなった方に借金があるときは、子の放棄のあとで、親や兄弟姉妹に相続が移ります。親や兄弟姉妹は、自分が相続人になったことを知った時から、自分の3か月が始まります(下の「3か月」を見てください)。
それぞれの人の「3か月」は、いつから
放棄ができる期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」です(915条1項)。最高裁(昭和59年4月27日)は、これを、相続の開始の原因となる事実(死亡)と、それによって自分が法律上の相続人になった事実を知った時から、と読みました(くわしくはガイド「相続放棄の3か月はいつから?」)。
この読み方を次の順位の人にあてはめると、子の全員が放棄してはじめて、自分が相続人になります。そのため、その人にとっての3か月は、亡くなったことだけでなく、先の順位の人が放棄して自分が相続人になったことを知った時から数える、と考えるのが自然です。ただし、これは判決の言葉を次の順位の人にあてはめた、この記事の読みです。判決が、次の順位の人の起算点を直接に論じているわけではありません。どの日から数えるかは、事情ごとに判断されます。
手続きの面では、東京家庭裁判所の案内が、第二順位(親・祖父母)と第三順位(兄弟姉妹)の人の添付書類について、「先の順位者がいる場合はその人の相続放棄が受理されていないと申述できません」と注記しています。次の順位の人が申述する前に、先の順位の人の放棄が受理されている必要がある、という運用です(東京家庭裁判所の場合。ほかの裁判所は、それぞれの案内を確認してください)。
孫の立場から見ると
- 親(亡くなった方の子)が放棄しても、孫は相続人になりません。孫が自分で放棄をする必要はありません。
- 親(亡くなった方の子)が、亡くなった方より先に亡くなっているときは、孫は代襲相続人です。相続したくないときは、孫自身が、自分のために相続があったことを知った時から3か月以内に放棄します(裁判所の案内では、被代襲者の死亡の記載のある戸籍も添えます)。
- 親が、承認も放棄もしないまま、亡くなった方のあとで亡くなったときは、916条が、その親の相続人(孫など)の3か月を、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から数えると定めています。この場合の相続の流れは、この記事では確認していません。
放棄の「3か月」を、いつから数えるか(相続の開始があったことを知った時から)と、財産がないと信じていたときに最高裁が別の起算点を認めた例は、ガイド「相続放棄の「3か月」はいつから?」にあります。
この記事で確認していないこと
- 限定承認、放棄の撤回の可否(919条)、財産の一部を処分したときの単純承認(921条)、熟慮期間の伸長。
- 遺産分割協議で何も受け取らないと合意することと、家庭裁判所に申述する相続放棄(裁判所の案内は、相続放棄には家庭裁判所への申述が必要としています)は、別の手続きです。この違いが借金などの扱いにどう影響するかは、この記事では確認していません。
- 全員が放棄して相続人がいなくなった場合の財産の扱い(相続財産の清算人、特別縁故者、国庫への帰属)。
- 個別の事案の判断は、家庭裁判所の窓口、弁護士、法テラスなどにご相談ください。
ほかの家族の組み合わせで相続分を計算するには、法定相続分・遺留分の計算が使えます。放棄の期限などは相続の手続き期限の計算で確かめられます。
出典
- e-Gov法令検索 — 民法(887条 子と代襲者、889条 直系尊属・兄弟姉妹、890条 配偶者、900条 法定相続分、915条 相続の承認又は放棄をすべき期間、939条 相続の放棄の効力)
- 裁判所 — 相続の放棄の申述(申述期間、第一順位は「子又はその代襲者(孫、ひ孫等)」、代襲相続人の申述には被代襲者の死亡の記載のある戸籍が必要)
- 東京家庭裁判所 — 相続の放棄の申述(令和6年10月。別紙の添付書類: 第二順位・第三順位の人は、先の順位者がいる場合はその人の相続放棄が受理されていないと申述できない)
- 最高裁判所第二小法廷 昭和59年4月27日判決(昭和57年(オ)第82号、民集38巻6号698頁)— 熟慮期間の起算点(死亡と、それによって自分が法律上の相続人になった事実を知った時)