求人票の「月給25万円(固定残業代45時間分を含む)」のような書き方では、基本給がいくらなのかが一目では分かりません。固定残業代がどう決まり、求人でどこまで明示することになっているのか、基本給に直すといくらになるのか、最低賃金とどう関係するのかを、労働基準法と厚生労働省の資料から順に確かめます。
固定残業代は、割増賃金の額を下回ってはならず、下回るときは差額を支払う必要がある、と厚生労働省は説明しています。月の総額から逆算すると、固定残業時間が長いほど基本給は小さくなります。月給20万円(月160時間)で固定残業が20時間なら、基本給部分の1時間当たり賃金は1,081円で、令和8年度の最低賃金の答申額で最も低い1,085円を下回ります。
固定残業代とは、求人でどこまで明示することになっているか
- 固定残業代は、一定時間分までの時間外労働・休日労働・深夜業に対する割増賃金として、定額で支払われる賃金で、「みなし残業代」「定額残業手当」などとも呼ばれます。基本給に組み込むタイプと、別の手当として払うタイプがあります(厚生労働省のQ&A)。
- 求人や募集で固定残業代を賃金に含めるときは、①固定残業代を除いた基本給の額、②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、③固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨、のすべてを明示することとされています(青少年雇用促進法に基づく指針。厚生労働省・労働局のリーフレット)。
- リーフレットの記載例は、基本給の額(固定残業代にあたる手当を除いた額)、固定残業代にあたる手当は時間外労働の有無にかかわらず○時間分の時間外手当として△△円を支給すること、○時間を超える分の割増賃金は追加で支給すること、の3つを並べる形です。月給の総額だけが書かれていて、基本給と固定残業代の内訳、時間数が分からない求人は、この形に沿っていません。
- 採用されたあとの労働条件の明示でも、固定残業代は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できるようにしておく必要があり、就業規則や労働条件通知書などで明確にしておくこととされています(厚生労働省のQ&A)。
固定残業代の額は、割増賃金の額を下回れない
割増賃金は、1時間当たりの賃金に、時間外労働なら1.25(1か月60時間を超えた分は1.5)をかけて計算します(労基法37条1項)。月給の人の1時間当たりの賃金は、月給を月平均所定労働時間で割った額で、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時の賃金・1か月を超える期間ごとの賃金は、割増賃金の基礎に入りません(37条5項、施行規則19条1項4号・21条)。
厚生労働省のQ&Aは、固定残業代の額が、この方法で計算した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払う必要がある、としています。たとえば、基本給20万円・月160時間なら1時間当たり賃金は1,250円で、45時間分の割増賃金は1,250 × 1.25 × 45 = 70,312.5円です。「固定残業代3万円(45時間分)」と書かれていれば、この額に届きません。確かめるには、固定残業代の逆算で、基本給・固定残業代・固定残業時間を入れます。
月の総額から逆算すると、基本給はいくらか
月の総額が「基本給 + 固定残業代」だけのとき(通勤手当などを除いた額)、基本給は、総額 ÷(1 + 1.25 × 固定残業時間 ÷ 月平均所定労働時間)です。月平均所定労働時間を160時間として、1時間当たり賃金(基本給 ÷ 160時間、円未満四捨五入)を表にしました。
| 月の総額 | 固定残業なし | 固定残業20時間 | 固定残業30時間 | 固定残業45時間 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000円 | 1,250円基本給 200,000円 | 1,081円基本給 172,973円 | 1,013円基本給 162,025円 | 925円基本給 147,977円 |
| 250,000円 | 1,563円基本給 250,000円 | 1,351円基本給 216,216円 | 1,266円基本給 202,532円 | 1,156円基本給 184,971円 |
| 300,000円 | 1,875円基本給 300,000円 | 1,622円基本給 259,459円 | 1,519円基本給 243,038円 | 1,387円基本給 221,965円 |
| 350,000円 | 2,188円基本給 350,000円 | 1,892円基本給 302,703円 | 1,772円基本給 283,544円 | 1,619円基本給 258,960円 |
同じ月給でも、固定残業時間が長いほど、基本給と1時間当たり賃金は小さくなります。たとえば月給20万円で固定残業が45時間なら、基本給は147,977円、固定残業代は52,023円で、1時間当たり賃金は925円です。
最低賃金との関係
最低賃金の比較では、所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)は、対象になる賃金に入りません(厚生労働省の最低賃金制度のページ)。固定残業代が割増賃金として決められているなら、比べるのは固定残業代を除いた基本給部分の1時間当たり賃金です。
令和8年度の地域別最低賃金の答申額は、最も低い宮崎県で1,085円、東京都で1,280円です(発効日は10月1日から12月2日まで、都道府県で異なります)。上の表で、1時間当たり賃金が1,085円を下回るのは、月の総額20万円・固定残業20時間(1,081円)、月の総額20万円・固定残業30時間(1,013円)、月の総額20万円・固定残業45時間(925円)の組み合わせです。1,085円以上でも東京都の1,280円を下回るのは、20万円・0時間(1,250円)、25万円・30時間(1,266円)、25万円・45時間(1,156円)です。月平均所定労働時間が160時間より長い会社では、さらに低くなります。
これは、月の総額と固定残業時間から機械的に逆算した数字で、実際の会社の内訳ではありません。基本給が最低賃金を下回る場合に、どう扱われるか(最低賃金法の効力など)は、令和8年度の最低賃金の解説と、都道府県労働局でご確認ください。
実際の残業が固定残業時間より多いとき、少ないとき
- 固定残業時間を超えて時間外労働をした分は、割増賃金を追加で支払うことが、求人で明示する3つ目の内容です。基本給20万円・月160時間・固定残業代70,313円(45時間分)で、その月の時間外労働が60時間なら、割増賃金は93,750円で、追加で払う額の目安は23,437円です。
- 固定残業時間に届かない月も、記載例は、時間外労働の有無にかかわらず支給する書き方になっており、固定残業代は固定で支払われるものです。
- 60時間を超える時間外労働は、割増率が1.5になります(37条1項ただし書)。固定残業時間が60時間を超える設定は、その分も1.5で計算した額が必要です(このサイトのツールは、そのように計算しています)。
基本給から時給を出すときの月平均所定労働時間は、年間休日の数で変わります。休日の数え方と「最低105日」の根拠は、ガイド「年間休日105日・120日は多い?少ない?」にあります。
この記事で確認できていないこと
- 厚生労働省のQ&Aが挙げている最高裁の判決(医療法人康心会事件、日本ケミカル事件)や、通達(平成29年7月31日基発0731第27号)の本文は、このサイトでは読んでいません。Q&Aの説明を、そのまま紹介しています。
- 固定残業代の定めが有効かどうか、手当が固定残業代として扱われるかどうかは、契約書の記載や会社の説明、実際の労働時間などの事情で判断されます(厚生労働省のQ&A)。この記事では判断しません。
- 休日労働・深夜労働の固定残業代、時間外と深夜が重なる時間の割増、割増賃金の基礎に入る手当の範囲は、表の計算に含めていません。表は、月の総額が「基本給 + 時間外の固定残業代」だけの場合の逆算です。
- 最低賃金の額と発効日は、厚生労働省の全国一覧(2026年10月11日に確認)にそろえています。官報の公示と各労働局長の決定書そのものは読んでいません。変わったら更新します。
1日の残業の時間と割増賃金は勤務時間計算、月平均所定労働時間を年間休日から出すには年間休日の計算、時間外労働の上限は時間外労働の上限チェックで確かめられます。
出典
- 厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A「固定残業代を支払うこととすれば、残業や休日勤務をさせても別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?」(固定残業代の定義、判別できること、差額の支払い、求人での明示。2026年10月6日に確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」リーフレット(求人票に明示する3つの内容、記載例、指針の抜粋、賃金に関する申出・苦情の統計)
- e-Gov法令検索 — 労働基準法37条、同施行規則19条・21条(2026年10月6日に確認。現行と未施行の版で同じ)
- 厚生労働省 最低賃金制度「対象となる賃金は?」(最低賃金の対象とならない賃金。所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)を含む。2026年10月6日に確認)
- 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」(都道府県別の答申された改定額・引上げ額・発効日。2026年10月11日に確認)